ミニマムノミック (Minimum Nomic)


"ノミック"(Nomic) というゲームが1982年に Peter Suber さんによって作られました。
(http://www.earlham.edu/~peters/nomic.htm)
このゲームの面白いところはゲームのルールがゲーム中に変更される、というところで、
ゲーム開始直後の目的はルールを変更することによって得点を得ることになります。
ある一定の点数を獲得した人がゲームの勝利者となるのですが、このゲームの勝利条件も
ゲーム中に変更される可能性があります。

ところがノミックは、初期ルールが結構多くて長い。 不変規則と呼ばれるものが16個。
可変規則と言うのもが13個。
気軽に「おぃおぃ、今日ノミックやろうぜぃ!」なんて言えません。
そこで、エッセンスだけを抜き出して、だれでも簡単に始められるくらいに初期ルールを
簡略化できなか、と思いました。

(ただ、似たようにルールを削減してミニ版ノミックを考えている人はいるようです。
 Minic(http://users.aol.com/dmchess/www/nomic.html)
 でも、オリジナルのフォーマットからかなりずれている感じがするので
 http://users.aol.com/dmchess/www/minic0_i.txt
 取っつきにくい感じがあるような気がします。)

ノミックの最も根本のルールであるもの「だけ」で構成される(と思われる)
ルールにしてみました。

<ゲームルール(9つ)>
初期ルール(すべて可変)
101
 すべての競技者はその時点で効力のあるすべての規則を守らなければならない。
 この初期規則集にある規則は競技開始時点で効力をもつ。

102
 規則変更とは、規則の制定、破棄または修正、のことをさす。

103
 競技者は時計回りに手番が回ってくる。

104
 手番の中で行うことは、規則変更を一つ提案し、それを投票にかける。

105
 規則変更は投票が有権者の間で満票であった場合にのみ採択される。

106
 採択された規則変更は、その採択を行った投票の直後、直ちに発効する。
 新しく制定された規則は201番から順次付けられる。
 一度破棄された規則の番号は永久欠番とする。

107
 競技者は常に一票の投票権を持つ。

108
 二つ以上の規則が矛盾するとき、最も若い番号の規則が優先する。

109
 競技者間で、手の合法性、規則の解釈・適用に関して意見の不一致があった場合、
 現在手番になっている競技者の右隣の競技者が判事となり、判決を下す。
 (このような手続きを裁判と呼ぶ)
 判事の判決は、次の手番の直前に行う投票で、当該判事以外の全員一致を見ない限り
 くつがえされない。判決がくつがえされた場合、その判事のさらに右隣の競技者が新
 たな判事となり、再度裁判を行う。以下同様。

<ポイント>
・このゲームには本家ノミックのように可変、不変とわかれていない。
・ゲームの勝敗や達成目標についてかかれていないので、それ自体もゲーム中に作成される必要がある。
・ゲームのルールを守らなかった時の罰則なども必要かもしれない。
・参加した人たちはまずは「どんなゲーム」にするかをゲームをしながら決めなければならないだろう。

ゲームをしていく中でゲームの目的が決まる。
なんだか人生そのもののようでおもしろそうだと思いました。
生きていくうちに生きる目的ができる、みたいに。

※ただし、以下のような注意書きも
「D・R・ホフスタッター著・科学と芸術のジグソーパズル「メタマジックゲーム」白楊社」
の中に見られる。

ほとんどのゲームには、手が規則に合っているかどうかを判定する確固たる手順が存在する。
これに対してノミックでは、手が合法的かどうかの判定自体、大変難しい場合がすぐ出てくる。
その上、ノミックでは裁判をメロメロにしてしまうようなパラドックスも起こりうる。
こういう事態は、ときとして規則の書き方のまずさからくるが、悪意に満ちたルールに起因する場合もある。
こういうたくさんのパラドックスの種類を予測しておくことはまったく不可能だ。
しかし、規則213(初期ルール)はこういう状況に対処するためのものであり、これによって初期規則集を法律
万能主義的なごちゃごちゃした条件で埋めなくて済む。

つまり、本家ノミックの初期ルールには、あらかじめ、矛盾や困った事態が起きないようにある程度の
予防線(対策)が施されている。が逆にこれがゲーム自体の発展の方向性を制限している(気もするので...)

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以上のミニマムノミックのアイデアを2003年頃にWebに掲載してしばらくしてから、GLOCOM(国際大学)の
東浩紀研究室が主催する研究会「ゲームの定義を再検討する」でミニマムノミックのことを話題にして
もらいました。
http://www.4gamer.net/news/history/2006.06/20060612231536detail.html
http://gamedeep.niu.ne.jp/yapw.cgi/RGN%232
http://www.critiqueofgames.net/mt/2006/05/63rgn_02.html

もともとは「生命とは何か」といろいろ考えている中で、
「ルール自体を変更するルールを内在しているシステム」
と考えたところからノミックの話につながっていきました。
(ちなみに、ルール自体を変更するルールを内在するシステムのダイナミクスを、JAIST橋本研では
 ルールダイナミクス (Rule Dynamics) と呼び、複雑系 (Complex Systems) の一つの特徴である
 と考えています)
ところが、違った視点で興味を持ってもらったことに面白さを感じました。

研究会でも参加者全員でやってもらったようですが、なかなか好評だったようです。
その記事によると、このミニマムノミックはゲームとはそもそもどういうものかを考えるいい題材になって
いるとのことです。

その後、研究室でもメンバーを替えて何度が実践したり、生命の起源と進化学会夏の学校で参加者に協力して
もらっていろいろな人に実践してもらいました。

立命館大学の先生も講義でも実践してもらっているようです。
http://blog.lv99.com/?eid=793822
どうも、ミニマムノミックはプロジェクトのシミュレーションとして優れているそうです。

純粋にゲームとして楽しめるかどうか、という点において、何度か私が実践した感想では、
1. 必ずしも「楽しい」ゲームになるとは限らない(参加者に依存)
2. ゲームの目的、勝利条件等が参加者間で共有されるまでは、ゲームの面白さがわいてこない
3. 思ったよりも時間がかかる (場合もある)(終了条件が毎回異なるので)
4. 参加者によってゲームの方向性が変わるので、前もって戦略が立てられない(予測や練習が難しい)

以上のような理由から、初期ルールは単純でもトランプゲームや将棋のように
「またミニマムノミックやりたい!!」
という欲求はなかなか起きないようです。

もしミニマムノミックの達人という人がいたらぜひ会ってみたいものです。

それでも!

私が思うに、人生も似たようなもので、夢や目標ができるまではなんで自分が生きているのか、
と悩んでいたりするもので、ミニマムノミックが人生のヒントになったり、ゲームの定義を考える
ヒントになったり、ルールダイナミクスを考えるヒントになったり、生命の起源を考えるヒントになったり、
憲法改正を考えるヒントになったり、、、ルールは単純でも馳せる思いはいろいろありそうです。

ま、ともあれ、一度もミニマムノミックをやってことがなければ、試しに一度やってみたらどうでしょう?
何かの発見があるかもしれません。
ないかもしれませんが、やってみるまでわかりません。。。

22 Jan. 2010 Masa from Zurich 

ミニマムノミックヒント

注意:
以下の情報を知ってからミニマムノミックを始めるのと、知らずに始めるのとではミニマムノミックの進行
(ルール発展)が変わる可能性があります。その進行(ルールの発展)の違いに興味がある場合は、読まず
にまずやってみて、それからもう一度やってみることをお勧めします。そして、この情報を参加者全員が
知った上でミニマムノミックを実践した場合の結果はまだ私にも予測がつきません。

必ずしもそうなるとは限りませんが、ミニマムノミックを実戦した経験がない人たちだけでなんの目的意識
も議論せずにミニマムノミックを開始するとその進行はおおよそ大まかに2つのフェーズから成り立つことが
予想されます。

1. 協力フェーズ:ベースルールと目的の作成/共有
2. 競争フェーズ:勝者となるように(または敗者とならないように)ターン進行

実はミニマムノミックには目的がないように見えて、ミニマムノミックが開始される以前に参加者全員に共有
されている目的(意識)が一つあります。ある意味自明なのですが、それは「なにかよくわからないがとにか
くみんなでミニマムノミックをやろう」という目的意識で、これはある種、義務にも似た強制力が働き、参加
者は他の参加者の合意なくしてミニマムノミックをやめることができなくなります。というかほとんどの場合、
自らやめようとはしません。途中で勝手にやめてはだめだ、というルールがないにも関わらず、この共通目的
意識のために参加者は途中で勝手にやめることはしません。やめたい場合は、ミニマムノミックの終了条件を
皆の了解を得て、作らなければなりません。ということで、とにもかくにもまず毎回決まってはじめに行われ
ることは「終了条件」の設定になります。どのような終了条件が設定されるかは毎回異なりますが、おおよそ
ここはみな協力して行われます。
(ただし、講義などで強制的にやらされた場合は、これは当てはまらないかもしれません。)

次に行われることは、競争が行える環境(ルール)づくりです。ここもたいていは参加者同士で協力的に行わ
れます。別に競争をするゲームにする必要はありませんが、たいていは「ミニマムノミックをなにかゲームら
しくしたい」という欲求が参加者にはあらかじめ存在していて、「勝利条件」「敗北条件」「ペナルティ」
「報酬」といったルールが作られていくことになります。その際、「105. 満票でルール採択」というルールが
ルール形成の進行に対してかなり厳しい縛りになるので「過半数で採択」といったようにフレキシブルなルール
体系に変更されたりします。そして、この「ミニマムノミックに勝つための条件」を設定するのとほぼ同時期に
(まだゲームとしての体裁が完全に整う前に)、「出し抜き合い」が水面下で行われ始めます。場合によって
はよりギャンブル性を高めるルールを導入して、参加者間の利得に差がでるようなルールが導入されたりし始
めます。

いくつか、利益や罰則に関するルールが導入されると、参加者間で次の欲求が生まれ始めます。それは「他者
より有利な状態でいたい」もしくは「勝ちたい」「負けたくない」というものです。ある場合はより多くの利
益を、ある場合はより罰則を受けないように、というように進められていきます。ここら辺からゲームとして
のベースルールが固まり始め、参加者間で共通の達成目標が形成し、共有し始めると、面白みが出てきたり、
つまらなさが増してきたり、と各参加者の心境に変化が生じてきます。逆に参加者間で共通の達成目標、目的
が形成されないと、「なぜ自分はこれをやっているのか」と参加している意義が理解できず、ますますつまら
なさが増していく傾向にあります。

はじめてミニマムノミックを実践すると、だいたいこの続きで数回ターンがまわって数時間経ちますので、
勝者が決定するか、疲れてきて終わりにするか、そろそろ終わりにしたいという欲求が共有され始めて、終わ
る傾向が多い気がします。数時間のプレイであれば、これといって戦略が必要であったり、複雑なルール体系
に発展することなく、ミニマムノミックが終了します。

一度やるとわかりますが、このような展開をあらかじめ予測しておき、ミニマムノミックを始める前に「どの
ようなルール体系にしていこうか」ということを考えているかいないか、またそういうルールデザイナーが参
加者に存在するかしないか、でルール発展が劇的に変わってきます。

もし一度やって「つまらない」と感じたら、どのようなルール体系にすると面白くなるか、と考えてやって
みると面白くなるかもしれません。

講義などで何かの特定の目的を持ってミニマムノミックをやる場合以外では、このミニマムノミックのルール
体系からいかに「面白いゲームを作るか」ということが一つの最終的な目的になりえますが、別に「面白いゲ
ームを作るために」ミニマムノミックが存在しているわけでもないので、別に憲法改正のためのアイデア作り
のためにミニマムノミックを実践しても良いですし、何かのプロジェクト作成のための練習としてミニマムノ
ミックを実践しても良い訳です。

つまり、ミニマムノミックをはじめる前の段階で参加者間で、「ミニマムノミックをやる目的」を共有(議論)
しているか、していないか、でもルール発展の方向性は変わって来ると思います。